電子レンジは、水分子の固有振動数(共振周波数)を利用しているのではないです。
この話は、定期的に出てきますね。
電子レンジが使っているマイクロ波の周波数は、日本では2.45GHzが多いですが、915MHzもあります。この時点であれ?という感じですが。
で、水分子の吸収スペクトルを見てみると、、、
http://www.lsbu.ac.uk/water/vibrat.html
赤外領域にいくつかピークがありますが、
- ν1 : 3657 cm-1 : 対称伸縮振動
- ν2 : 1595 cm-1 : 変角振動
- ν3 : 3756 cm-1 : 非対称伸縮振動
ということで、これがいわゆる水分子の固有振動数です。Hzで言いたければエクサヘルツとかペタヘルツかな。あと回転とかいろいろありますが、どれもマイクロ波、ミリ波よりずっと高い周波数で、基本、周波数が下がると吸収はどんどん下がっていく。
*可視光、特に青色のところでがーんと下がっているのは、海がなぜ青いかの理由ですよ。(空が青い理由は吸収じゃなくてレイリー散乱ですが)
テラヘルツくらいから水素結合に関する共振が見えてきます。
さて、昔ミリ波レーダが60GHzが空気減衰が高くてそんなに飛ばないからいい、と言われたのは水ではなく、O2の減衰。それに関連してミリ波周辺の減衰はこちら。(今は77GHz帯が使われている。Google Pixel4の60GHzセンサは日本でまだ認可されてない、、、)
http://www.fujitsu-ten.co.jp/gihou/jp_pdf/30/30-1.pdf
でいくと、水蒸気は22, 183, 323GHzくらいでピークを持つ。さて、だんだん2.45GHzがなぜ使われるかわからなくなってきたでしょう?
でようやくそのGHz帯域。2.45GHzにまったく損失のピークないです。。。
http://www.microwave.ne.jp/06/007.html
分子の振動とかそういうイメージでなく、比誘電率と誘電体損失をもったマクロな物体(分子一個一個というより集団運動)のイメージで、それなりに誘電体損失が高いところを使っているという感じですね。
周波数が選ばれたのは、水の性質よりもマグネトロンが適当な大きさで効率がいいものが作れる周波数かどうかをまず考え、
その上で波長12cmで食品サイズと同等くらいで、電力半減深度が食品にちょうどあってること
※あまり周波数高いとなかまではいらない、
またチョークで電子レンジ内部に電磁波閉じ込めしやすいという技術的側面と、
法律上(日本だと電波法)、勝手に適当な周波数の電波を使ってはだめ!というのがあるのでそこのバランスで決まってます。周波数はそれでいわゆるISM(Industry-Science-Medical)バンドが利用されています。
それはそうと周波数帯は貴重な資源ですからね、、、この前も900MHz帯のプラチナバンドが決まったばかりですが、超高額なお金が動いています。
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ちなみに、、、無線LAN(WiFi)の電力は20dBm = 100mW = 0.1Wくらい。かつアンテナから出ていくので距離の2乗に反比例して弱くなる。一方、電子レンジは、うちのやつは1000W。まあ弱いやつでも500Wくらいだろう。しかも筐体内部に電磁波を閉じ込めてる。
なので、少なくとも無線LANの電力は1/5000、実質は距離が離れると数万分の1どころじゃなく弱くなるので、周波数だけでなくそこのところもよろしく!(何がだ)
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こちらも参照: 電子レンジであったまるもの、そうでないもの。
*この前、会社の図書室で固体物理のバックナンバーを見ていたら、著名な物理学者の近角聡信さんですら、同じ間違いを書いていた…その他、ブログとかtwitterで有名な人な物理系の人たちも同じような間違いを…(リストは略)
フェルミやファインマンなら、こういう身近な現象も(生きていたら)絶対知ってるだろうなあ。
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