NHK 数学ミステリー白熱教室~ラングランズ・プログラムへの招待~ 11/27の第3回 “フェルマーの最終定理”への道 ~調和解析の対称性~を見た。
第一回、第二回はこちら↓
では第三回の速記メモ、谷山豊についても話そう、とのことです。
今回も半袖シャツ(黒)で現れたフレンケルさん。
まずはここまでのおさらい。
ラングランズプログラムは異なる数学の分野をつなげ、統一しようという試み。
ラングランズが最初のアイデアを出したのは1960年後半。その後、数学の他の分野にも広がった。
まずはこの文書を観てほしい。ロバート・ラングランズがアンドレ・ヴェイユに送った手紙。。。についていたメモ。
彼のアイデアが示されている。1967年に書かれたもの。
これはプリンストン高等研究所の資料室に保管されている。
内容は、
ヴェイユ教授
講演のお招きを受け同封の手紙を書きました。
書き終えてから
私は確信を持てることがほとんどなにもないことに気づきました。
これを純然たる推測としてお読みいただけるならありがたく存じます。
そうでなければお手近にくずかごがあると思います。
---
だが、捨てられるどころか、この手紙はその後、数学の全く新しい予想を生み出した。
これから話すのはラングランズプログラムに直接関係している。
フェルマーの最終定理だ。
x^n + y^n = z^n
nは固定された整数、3,4,5,...
x,y,zがこの方程式の未知数となる。
おおよそではなく、ぴったり等しくなければいけない。
フェルマーの最終定理は、この正の整数x,y,zが存在しない、ということを表している。
ところでなぜnは3や4?2でもいいんじゃないか?
n=2のときを考えてみよう。
x^2+y^2=z^2
になる。これに見覚えはない?
最初の講義で紹介した、ピタゴラスの定理に出てくる式。直角三角形の。
ではこの式について考えてみよう。
x,y,zは存在するだろうか?
ピタゴラス数と呼ばれる数がそれにあたる。
1つ目はx=3,y=4,z=5だ。
5,12,13もそう。
これが書かれたディオファントスが書いた算術という本をフェルマーが読んでいたとき、
この式でn=2より大きいときはどうなるだろうか、と思った。
これが数学を発展させるやり方。
フェルマーはその本の余白に有名な、
”私は真に驚くべき証明を見出したが、余白が狭すぎるので書くことはできない”
と書いた。
君たち、テストで同じことをしたらだめだよ!とギャグを飛ばして笑いを取るフレンケルさん。
でもなかなかうまい手だ。その後、フェルマーは何も残していない。
n=4の証明はしたんだが、それ以外はない。
1995年に証明されたのだが、350年もかかったことになる。
しかもそれはフェルマーの最終定理を直接証明したのではなく、
志村・谷山・ヴェイユ予想を証明したのだ。
志村・谷山・ヴェイユ予想を証明すればフェルマーの最終定理を証明することになる。
実はそのことに最初に気づいたのは、1986年、フレンケルさんの同僚のケン・リベットさんだった。
カフェストラーダでコーヒーを飲んでいたときアイデアが出たそうだ。
すでにこのとき志村・谷山・ヴェイユ予想は有名だった。
最終的に、
アンドリュー・ワイルズとリチャード・テイラーが1995年に志村・谷山・ヴェイユ予想を証明した。
ここで予想とはどういうことをいうのか説明する。
どうやら真実とは思われるがはっきりとはわからない、証明がないもの。
フェルマーのは本当は予想だった。
志村・谷山・ヴェイユの場合は予想と呼ばれていた。
ラングランズプログラムも同様だ。いくつもの予想で構成されている。
なぜ、志村・谷山・ヴェイユ予想について話しているかというと、ラングランズプログラムの特殊なケースに当たるから。
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ここで数学の概念を紹介しよう。
時計算術だ。
この目覚まし時計の電源をいれよう。
君たちを起こすためじゃないよ(とまたギャグ)
アナログ時計が良かったんだがデジタル。
最近はアナログの目覚まし時計、売ってないんだねー(そうそう、私も買いに行ったときにないことはなかったが少なくて仕方なくデジタルにした)
時計は10:00を指している。
5時間働くと?
3時になった。どうしてこうなるの?
単に足したら
10 + 5 = 15
じゃないの?
時計は1時から12時しかない。
そこで10+5=3になる。
どうなってるの?12を引いた数になる。
13は1に、14は2に、、、、
これが時計算術。
モジュロ演算とも呼ぶ。
15 = 3 (modulo 12)
12を法として15は3に等しい。
と呼ぶ。
足し算も掛け算もできる。
ところで12である必要はない。別の正の整数でもいい。
数学で最も面白い時計は素数の場合だ。
ここで最も重要な概念がでたぞ。素数だ。
素数に触れずにどうやって数論を語れるか。。。
素数とは何かを思い出すと、
1と自分自身以外で割り切れない正の整数だ。
ちなみ1は慣例として含めない。
最初の素数は2、次が3、5、7、
ここで私は9と書いて君たちが起きているかいつも試すんだが、、、今日は起きているようだからやめておこう(笑)
次は11。
偶数なのは2だけだ。
素数は数の原子のようなものだ。
すべての整数は素数から作ることができるから。
60=2^2*3*5
など。
時計に戻る。
例えば7時間時計を考える。0,1,2,,,,6と目盛りが。
解を見つけるといってもどの範囲で見つけるかが重要。
例えばフェルマーの最終定理は正の整数の範囲で。
でも違う範囲なら、例えば
y^2 = x^3 - 3*x + 5
という三次方程式の解が求まるかもしれない。
この方程式では正の整数全体から探しているのではなくて、
素数pを法とする解を求めようとしている。
ということは必ずしも右辺と左辺が等しくなくていい。pの整数倍だけ変わっていてもいい。
つまり、様々な3次方程式が素数pを法とする解を持つか?
そして解の個数はいくつか?
これが志村・谷山・ヴェイユ予想に出てくる。
あらゆる時間の時計が必要になる。素数は無限にあるので、
1つの方程式に対して無限回の計算をしないといけない、、、
志村・谷山・ヴェイユ予想ではそういう問題を考える。
例えばp=5の時。
y^2 + y = x^3 - x^2 modulo 5
を考える。
x=0,1,2,3,4を考えよう。yも同じ。
これらを入れてみたら?
25通りあるので手計算でも計算できる。
4つの解がある。
x=0,y=0
x=0,y=4 (20=0 modulo 5)
x=1,y=0
x=1,y=4
だ。
一つ一つの素数ごとに解の個数を確かめる。
表にまとめると?
素数p:2,3,5,7,11,13
解の個数S(p): 4,4,4,9,10,9
p-S(p) : -2, -1, 1, -2, 1, 4
最後のは素数から解の個数を引いたもの。
素数の値が大きくなると計算が膨大になる。
規則性はある?
一見するとないように見えるが、、、
奇跡が起きた。ランダムじゃない。
p-S(p)は調和解析に登場する、たった1行の数式で知ることができる。
もう一度言おう。
p-S(p)は調和解析に登場する、たった1行の数式で知ることができる。
だから私はこれを奇跡と呼びたい。
その数式とは、
q*(1-q)^2*(1-q^11)^2*(1-q^2)^2*(1-q^22)^2*(1-q^3)^2*(1-q^33)^2*(1-q^4)^2*(1-q^44)^2*・・・
だ。
この式はどのように作られている?
いくつかの単純な数式を組み合わせたもの。
まずはq。ただの変数だ。
次に
q*(1-q)^2*(1-q^2)^2*(1-q^3)^2
を考える。さらに11の倍数の式を掛ける。
*(1-q^22)^2*(1-q^22)^2*(1-q^33)^2
さて、この式の括弧を外して展開するとどうなるか?
=1-2q^2-1q^3+2q^4+1q^5+2^q^6-2q^7-2q^9-2q^10+1q^11-2q^12+4q^13・・・
係数を
b1, b2, b3・・・などと書く。
b1=1, b2=-2, b3=-1, b4=2
そして、この係数こそが探している数。b(n)と書いたほうがわかりやすいかな?
これを使うと、、、
p-S(p) = b(p)
となるのだ。
これが志村・谷山・ヴェイユ予想が我々に教えてくれることの一例だ。
ラングランズはこれを
「混沌の中に秩序を見いだす」
といった。
複雑だった問題に、いわばソースコードのようなものを発見したんだ。
解の個数を求めるDNAを見つけたようなもの。
さて、ここまで対称性が大きな役割を果たす、と言った。
調和解析における対称性とは?
さっきの数式は関数として捉えることもできる。
特別な変換をしても変化しない。
先ほどの形式はモジュラー形式とも呼ばれ、
単位円と呼ばれる領域で定義された関数で、非常に美しい対称性を持つ。
その一例が、
f(q) = q*(1-q)^2*(1-q^11)^2*(1-q^2)^2*(1-q^22)^2*(1-q^3)^2*(1-q^33)^2*(1-q^4)^2*(1-q^44)^2*・・・
まるで魔法のようなことが起きる。
数論の分野の問題は、調和解析という別の数学の分野で解くことができるのだ。
ではなぜモジュラー形式は調和解析ということができるのか?
最初の講義で、調和解析は三角関数で表される音に関するものだと言ったが、
重要なのは2πずらしても変化しないという対称性を持つことだった。
モジュラー形式も単位円上で定義された関数で、三角関数と似た対称性を持つ。
まとめると、
ある数論の問題
y^2 + y = x^3 - x^2
素数pを法とする三次方程式の解の個数を数えよ
というものがあり、一方では
ある調和解析の関数、単位円上で定義されたf(q)がある。
その関数は特殊な性質(対称性)を持っている。
で、志村・谷山・ヴェイユ予想とは、
あらゆる三次方程式の解を数える数論の問題に対し
その答えを導く調和関数のモジュラー形式が存在する
というもの。
なぜつながっているのか?正直なところ理由はわかっていない。
ワイルズとテイラーが証明したのだが、隠された理由があるのかもしれない。
世界の7不思議のようなものだ。どこにも出かけていく必要がないのに見つけられる。
では、志村・谷山・ヴェイユ予想にかかわった人々について話そう。
まずは
谷山豊。
1958年に亡くなった。この予想のアイデアを最初に発表したのは1955年、戦後の日本で初めて開催された数学の国際会議。
東京と日光で開かれた数論の会議で、この予想を出した。
その予想は同僚の志村五郎とアンドレ・ヴェイユによってさらに研究されることとなった。
どうしたらこんな革命的な発見ができたのか?
不思議にずっと思っていた。
谷山には深い洞察力があった。
数学の洞察とは何か?
今ではコンピュータが人間に追いついたと言われることがある。でも意義を唱えたい。
直感力が大事で、このような発見を行うとき、普通とは違うなにか別な力が働く。
谷山の話には悲しい続きがある。
予想を出してからしばらくして谷山は自ら命を絶った。
遺書にはこうかかれている
”ただ気分的に言えるのは将来に対する自信を失ってしまった。
私の行為がある種の裏切りであることは否定できませんが
最後のわがままと捉えてください。
私がこれまでの人生で行ってきたように”
彼の死からほどなく、婚約者も命を絶った、、、
”私たちは決して離れないと約束しました。だから私も一緒に行かなければなりません”と書置きを残して、、、
このことは悲劇だが、数学者も人間であり、あらゆる経験をし、様々な感情を持っていることを気づかせる。
そして死後、同僚の志村が谷山をたたえている。
”彼が生きていた時よりも今のほうがずっと強く彼の高潔な寛大さを感じる。
それなのに彼が切に支えを必要としていたとき誰も彼の支えとなれなかった
このことを思うと、私は深い悲しみに打ちのめされる”
と。
これは数学の物語であり、人生の物語でもあった。
次回は量子物理学について話そう。物理学における対称性について、そしてそこにラングランズプログラムがどのように現れるか?
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投稿: 平成の新聞少年 | 2015年11月29日 (日) 10時18分