スマホRF駆け出しエンジニアの豆知識: ⑨フリーの高周波シミュレーションソフト(回路シミュレーションはQucsStudio, LTSpice XVII、電磁界シミュレーションはHFSS学生版、Rogersツールで特性インピーダンス計算、PythonはScikit-rf)
今回で第五回。高周波シミュレーションのソフトウェアでフリーなものについて。基本、シミュレータはSパラメータを出力するものになっているのが低周波のシミュレータと違うところ。
まずはKeysightのADSに代表される、周波数特性を求める回路シミュレータに似た操作で計算できるものとして、
1. Qucs あるいはフォークされたQucsStudio
本家Qucsは
QucsStudioは
最新版があるのと、ライブラリでほしいものがあるので私はQucsStudioを使っている。
こんな感じでコンポーネントを選んで(例はマイクロストリップライン)、
計算するとSパラメータがスミスチャートも込みで計算できる。ADS使ったことある人ならすぐ使えると思う。
参考:
高周波回路シミュレータQucsStudioを使ってみる(その1)まずは何をさておきμの文字化けだけには注意。
高周波回路シミュレータQucsStudioを使ってみる(その2)SパラメータのTouchStoneフォーマットで出力するには?
高周波回路シミュレータQucsStudioを使ってみる(その3)Mixed Mode S parameterを計算
高周波回路シミュレータQucsStudioを使ってみる(その4) 電磁界シミュレーション(FDTD)機能を使ってKeysight ADSのMomentumの例題のフィルタ(スタブLPF)を計算。
2.LTSpice XVII
リニアテクノロジーがアナログデバイセズに買収されてもまだちゃんとLTの名前が残って更新されているLTSpice。
https://www.analog.com/jp/design-center/design-tools-and-calculators/ltspice-simulator.html
先程のADS系と違って基本は時間領域計算ですが、Sパラメータも交流を応用して計算できる。
ExampleにSparaの使い方が入ってます。一番最後の回路が推奨。
ちゃんとフィルタ特性も計算できてる。タッチストーンに直せないのと、別のSパラを持ってこれないのは難点ですが。
3. Ansoft HFSS
なんと3次元電磁界シミュレータの代表であるHFSSのスチューデントバージョンがある。これ一択ですな。
Ansys Provides Competitive Edge to Future Workforce Through Novel Release of Free Electronics Desktop Product for Students
Ansys® HFSS™, Ansys® Maxwell®, Ansys® Q3D Extractor® and Ansys® Icepak®
も使える。
4. RogersのMWI (Microwave Impedance Calculator)
https://www.globalcommhost.com/rogers/acs/techsupporthub/en/calculatorMWI.php
基板の特性インピーダンス計算したいならこれ一択と思います。かなりよく実測とも合う。
5. AppCad (hp→Avago→Broadcom)
古くはhpが作っていた高周波のいろいろな計算ができるツール。マイクロストリップラインなどの計算もできるし、
Sパラも表示できる。
https://www.broadcom.com/appcad
RF・マイクロ波の便利ツール、HPのAppCADがいつの間にかAvago(Broadcom)ライセンスのver4に!Sパラ表示や伝送線路計算などできるよ。
6.Pythonの高周波ライブラリ Scikit-rf
シミュレータよりPythonでやりたいという人はこちらで。
import skrf as rf ntwk = rf.Network('ring slot.s2p') ntwk.plot_s_smith()
とかだけでSパラメータが描ける。
参考:
Pythonの高周波系のライブラリ scikit-rfを使ってみる(その1) 何はともあれSパラメータを㏈表示する。とりあえずダイプレクサとトリプレクサでも。
Pythonの高周波系のライブラリ scikit-rfを使ってみる(その2) TDR(Time Domain Reflectmetry)を試す。
Pythonの高周波系のライブラリ scikit-rfを使ってみる(その3) スミスチャートにマーカーを打つ。
Pythonの高周波系のライブラリ scikit-rfを使ってみる(その4) 評価ボード(EVB)に実装された素子の素の特性をDe-embedで求める。Qucsstudioで元データを作った。
いろいろ試してみよう!
これまでの記事:
第一回:
スマホRF駆け出しエンジニアの豆知識: ①アンテナスイッチとアンテナスワップスイッチとアンテナチューニングスイッチとアンテナアパーチャスイッチの違いは? ②デュプレクサとダイプレクサの違いは?
第二回:
スマホRF駆け出しエンジニアの豆知識: ③アプリケーションプロセッサとモデムとトランシーバーの違いは?④いつからバランスタイプのSAWフィルタが使われなくなった?
第三回:
スマホRF駆け出しエンジニアの豆知識:⑤スマホ内部の有線通信はMIPIスタンダード⑥電源系は電源管理IC(PMIC)が使われるがDC/DCコンバータのスイッチング周波数って6.4MHzとか高くできる。
第四回:
スマホRF駆け出しエンジニアの豆知識:⑦スマホRFのフロンドエンドモジュール(FEM)のブロック図はどうなってる?⑧5G ミリ波の場合は?
第五回:
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