パンサー尾形さんのNHK笑わない数学 超越数を見てメモ。紹介されていた1/3と√aの作図をGeoGebraでやってみた。そして尾形さんがエルミート・リンデマンの定理を使ってπが超越数だと証明し、E.T.ベルの漆黒の闇の名言とコンツェビッチさんの周期まで。
パンサー尾形さん登場。
今日のテーマは、超越数。そう、どこかで使いたくなるかっこいい言葉だなと思いますよね。言ってみれば人知を超えたウルトラスーパーな数、ということです。つまり超越数は1とか5/3とか√2とかとレベルが違うものすごい数なんです。
こんなことから考えてみましょう。今からおよそ2400年まえ、ギリシャの哲学者アナクサゴラスはこんな問題に悩んでいた。
半径1の円と同じ面積の正方形は描けるか?
ただし、使って猪野は定規(目盛り無し)とコンパスだけ。簡単そうに見える?いや2000年以上誰も解けなかった超難問だ。
円の面積はπだから、面積πの正方形の1辺は√πなのでこれが定規とコンパスだけで描けるか?ということになる。
定規とコンパスだけ、というのがよくわからない?ではやってみましょう。
ここの長さ1の線分があります。これを元に長さ3を作図せよ。
まずは定規を使って適当に直線を描く。線分Aの長さにコンパスを合わせる。コンパスは長さを写し取れるので3がかける。
では長さ1/3は?
まず適当に引いた直線にコンパスで1の長さを2つ作ります。さらにコンパスを使って適当な長さを半径に、まず1点目を中心に円を、もう1点目を中心に円を描く。円の交点と最初に描いた線の真ん中を結ぶと、垂線になっている。
でその直線に垂線の交点から3つの長さ1を写し取り、3の長さを作る。最初の点のどちらかと結ぶと、直角三角形ができる。
今度は円の交点からさっきと同じ方法で垂線を描く。
2つの三角形ができるが、これは形が同じで大きさだけが異なる相似になっている。ということは底辺は3:1だったから、高さの比もそうなる。
大きい方が高さ1なので、小さい方は1/3。
(って文章で書いてもわからないのでGeoGebraで描いてみる。ほんとだ!)
ちなみにこれまでで分かったことを使えば、5の長さも、11の長さも描けるし、1/5も3/5も描けるし7/11も描ける。
どんな自然数も分数(有理数)も描ける。
もう一つ、√の長さも作図できる。長さ√aを作図せよ。
適当な直線を描いて、1の長さとaの長さを写し取る。その中点をコンパスで作図し、その中点を中心とした半径をそこから端までとした円を描く。長さ1の内側を通る垂線を描き、円に交わる点から両端の点に線分を描く。すると2つの大小の直角三角形ができる。
これも相似。高さをxとすると
1:x=x:a
x^2=aになるのでx=√a
(これも分かりにくいのでGeoGebraで√2を)
なるほどー!
でもこれで長さaが作図できれば√aが作図できることがわかった。
パンサー尾形さん再登場。学校で習った気がするけど完全に忘れてるなー(私もだ)。
ここでさっきのアナクサゴラスを思い出そう。
長さ√πが作図できるか?
√は作図できるので、長さπが作図できればいい。
πは作図できるか?アナクサゴラスもここまでは分かっていた。しかしどう知恵を絞っても作図する方法はわからなかった。
なぜπは作図できないのか?
その理由を全く新しいアプローチで考えたのが19世紀ドイツの数学者で円周率πの征服者と言われる
フェルディナント・フォン・リンデマンだ。
その方法は超越数と深い関係がある。
作図できる長さは自然数、有理数、√だった。
リンデマンは作図できる長さにはそれぞれに対応する方程式が存在する、ということを考えた。
1/3 は 3x-1 = 0の解
√2は x^2-2=0の解
実は作図できる長さは方程式の解(整数係数の一変数代数方程式の解)になっている。
その数には代数的数という名前がついている。
言葉が難しい?とにかく!作図できる数は代数的数に含まれている、ということだけ覚えておいて。
リンデマンが考えたこと。
もし代数的数にπが含まれないなら、作図できる数にはならない、そして代数的数にならない数には特別な名前が付けられた。
それが超越数。
つまりリンデマンはπが超越数であることの証明を目指した。
パンサー尾形さん再登場。
πは代数的数なのか?超越数なのか?アナクサゴラスの問題を解くカギだった。
代数的数は性質が徹底的に調べられてきた。カルダーノやフェラーリは3次方程式、4次方程式を調べ、若き天才ガロアは5次方程式以上には解の公式が存在しないことを証明した。
数学者たちがいじくってきたのは全て代数的数だった、といっても過言ではない。
ちなみに2乗するとマイナスになる虚数iも代数的数。なぜならx^2+1=0の解だから。
代数的数ではない超越数はどんなものか?πは超越数なのか?
リンデマンはどんな方法で証明しようとした?
それを見る前にリンデマン以前の歴史をたどろう。
超越数があるのかないのかわかっていなかった18世紀のころから、もしかしたら超越数なんじゃないか、と疑われていた数があった。
一つが円周率π、もう一つは自然対数の底 e。
最初のターゲットはeだった。19世紀前半のパリ, eが超越数であることの証明を目指したのは当時の数学界のリーダーの1人、ジョゼフ・リウヴィルだった。しかしリウヴィルは証明にはたどり着けなかった。追い詰められた。
そこでリウヴィルが考えたのは人工的に超越数を作ってしまおうと考えた。
1844年、ついにたどり着いたのがリウヴィル数だった。
1/10 + 1/10^(1x2) + 1/10 + 1/10^(1x2x3) + 1/10 + 1/10^(1x2x3x3) + …
分母がどんどん大きくなる数を足し合わせた奇妙な数。小数で表すとほとんど0ばかり。0.11000 10000 00000 00000 0001...
この数は超越数であることをリウヴィルは証明した。
超越数の歴史に詳しいソルボンヌ大学のミッシェル・ワルドシュミット博士は語る。
https://webusers.imj-prg.fr/~michel.waldschmidt/aboutme.html
「リウヴィルの示した数は非常に独創的でした。彼が実際に超越数の存在を証明したことは当時の数学者たちをとても驚かせたのです」
パンサー尾形さん再登場。
いやー、誰も見つけることができなかった超越数を発見したとはリウヴィルはすごい。でも自分で作ったのは無理やり過ぎない?
πとかeとかが超越数だった、という劇的な展開が見たいなと思いませんか?
リウヴィルの発見からおよそ30年後の1873年、eが超越数であることの証明にたどり着いたのはシャルル・エルミートだった。
エルミートが用いたのは背理法。eが超越数ではなく、代数的数であると仮定すると矛盾が生じる。
a_n e^n + a_n-1 e^(n-1) + …+a0 =0
が成り立つとすると、ある奇妙な数、Jが求められるがこれはものすごく大きい数でもあり、かなり小さい数だという矛盾が生じる。
だから最初の仮定が誤りで、eは超越数だと証明された。
そして1882年、ドイツ。πが超越数だと証明したのがあのフェルディナント・フォン・リンデマンだった。
ただしリンデマンは直接証明したのではない。エルミート・リンデマンの定理、
αが代数的数ならばe^αは超越数である(ただしα≠0)
ということを証明した。
このエルミート・リンデマンの定理を使えばπが超越数だと証明できる。ということで尾形さん、証明してください。
ということでパンサー尾形さん再登場。証明を行う。
πが超越数であることを証明せよ
仮定:πは代数的数だとしたら?
虚数iは代数的数なのでiπも代数的数。
ここでエルミート・リンデマンの定理を思い出す。αが代数的数ならばe^αは超越数である(ただしα≠0)
αにiπを入れてみると?
e^iπは超越数になるはず。ところがオイラーの公式からe^iπ=-1
-1は代数的数。なので矛盾。
仮定が間違っていたことになり、πは超越数。サンキュー!
その後も超越数探しは熱を帯びていくが、見つかったのはわずか。レアキャラのような存在だった。
超越数は数のなかで少ない外れもの?
いやそうではない。無限の回で登場したゲオルク・カントールは自然数の個数と実数の個数を比べて、実数の個数の方が圧倒的に多いことを示した。またカントールは自然数の個数は代数的数の個数と等しく、実数の個数より少ないことを証明した。
実は数のほとんどは超越数なのだ。
イギリスのある数学者はその驚きをこんな言葉で表現した。(数学者E.T.ベル)
「代数的数は漆黒の空にある星のように光っている。漆黒の闇は超越数である」
Eric Temple Bellさんだそうだ。
https://libquotes.com/eric-temple-bell/quote/lbc1a4k
どうです皆さん、私たちが知っている数は数全体から見れば取るに足らない存在で、数の大部分は私たちが知らない超越数が占めている、という驚きの事実。
私たちは数というものを全く知らないと言っても過言ではない。数学者たちは次にどんなことを考えているか。
超越数の分類だ。
21世紀の数学を牽引する天才の一人、フランス高騰科学研究所教授のマキシム・コンツェビッチ博士。
2001年に提唱したのは超越数の分類方法だった。
注目したのは積分記号。
πは積分記号でπ=2∫√(1-x^2)dx (x=-1 ~ 1)と表せるが、eやリウヴィル数は表せない。
∫はある種の代数的労委騎乗での代数関数の積分。
コンツェビッチ博士は積分記号で表される超越数を周期と名付け、周期とそうでないものに分類することができた。
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-642-56478-9_39
今後の数学を大きく進歩させる可能性を秘めていると言われている。
周期の登場は今後長い間人間の精神活動に喜びと活力を与え続け、数学を進展させるエネルギーを与え続けるのではないか(大阪大学 吉永正彦教授)
数という広大な未知の世界。人類はその第一歩を踏み出したばかりなのかもしれません。
パンサー尾形さん再登場。
数学のことを知れば知るほど、人類の知性の果てしなさに誇らしくあることもあれば、どんな天才でも届かない闇にただ無力を感じることがあって、なんだか恐ろしい感じがしてくる。
数学は魅惑と恐怖があるミステリー小説みたいなものじゃないのか、今日もまたこんな思いにひたった。
最近すっかり本を読まなくなったのも、数学という超本格ミステリにはまっているからかもしれません。
え?お前は最初から文字を読んだりしないのでは?
いや今日もたくさん読んだよ(カンペが膨大に…)
次回はケプラー予想。
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