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2023年11月30日 (木)

パンサー尾形さんのNHK笑わない数学 1+2+3+4+・・・=-1/12を録画したのをしてメモ。グランディ級数、チェザロ総和法、ラマヌジャン総和法(とハーディへの手紙)、カシミール効果とその実験的検証、超弦理論など盛りだくさんでした。最後の答えはもちろん...39。

パンサー尾形さん登場。

今日のテーマは、

1+2+3+4+・・・=-1/12

最初に言っておきますけど、この数式、インチキですからね!どんどん大きくなる数を足していって、マイナスになるわけないじゃないですか!

だから、これは間違い!

学校のテストでこんな答え書いたらバツですよ!

でもですよ、なんでこの数式が今日のテーマになっているかというと、これが必ずしも間違いとは言えない、いやある意味正しいという驚くべき話があるからなんです。

でもいきなりその話に入る前にこんな数式から始めましょう。ハマちゃん登場。

1+1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+・・・=?

地道に足していく尾形さん。早送りで1/32まで足した。一生かかっても無理だよ!

でも数学ではこんな感じの無限この数を足し算していくという問題がしょっちゅう出てくるんです。

例えば、

1+1/3+1/9+1/27+1/8+・・・=?

のような問題や、プラスとマイナスが入れ替わりながらどんどん大きくなっていく数を足し合わせる

1-2+4-8+16-32+64+・・・=?

のような問題や、自然数を全部出し合わせる

1+2+3+4+5+・・・=?

という問題まで。

こうした問題、まるで正体不明のモンスターのようで無茶だなと思いますよね?

でも数学者たちはこうしたモンスターをうまくねじ伏せる方法を確立しているんです。

さっきの尾形さんの問題をやってみましょう。

それはまず、いきなり無限個足すのではなく

その途中まで、例えば100番目までの和を考えることから始める。

1+1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+・・・=?

の100番目までの和は?

この式、2番目が2分の1で、3番目が1/2^2, 4番目が1/2^3

ということになるので100番目はどんな数かというと、1/2^(100-1)

になる。でもこの合計がいくつになるかはまだ見当つかない。その値を仮にS100と書いておこう。

S100=1+1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+・・・+1/2^(100-1)

でこの式を2倍した式を考える。

2×S100=2+1+1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+・・・+1/2^(100-2)

この2つの式をよく見比べると?

一致する数字がたくさんある。そこでこの両辺を引き算する。

S100=2-1/2^(100-1)

だけが残る。

S100は100番目までの和だった。じゃあ、無限番目までの和は

S∞=2-1/2^(∞-1)

になるが、2番目は分母がものすごく大きい数になり、限りなく0になる。ということは

S∞=2

になる。

正体不明かも、と思ったモンスターが意外とかわいく見えてこない?

パンサー尾形さん再登場。

なるほどー。何か面倒くさいけど頭いい方法だなって思いますよね?

ちなみに無限個の和を表すこの数式は数学では無限級数と呼ぶんです。

そしてこの無限級数、いろんな種類があるんですよ。ハマちゃん、カモン!

2つの無限級数の和を求めて欲しいという問題。まず最初に出てきた

1+2+3+4+5+6+・・・=?

これはもうどんどん大きくなる数を足していくわけでしょ?∞じゃない?

では

1-2+4-8+16-32+・・・=?

は?

地道に計算する尾形さん。32までで-21。グラフに描いてみる。答えなんてないんじゃないの?

尾形さんの答えはほぼ正しいんですが、さっきやった途中までの和を取る方法でやってみる。

最初のはn番目までの和は

1+2+3+4+5+6+・・・+n=n(n+1)/2

ということがわかっている。

ということは、無限番目だと∞に大きくなる。でも無限大は数とは認められてないので、答えなし、ということになる。

では

1-2+4-8+16-32+・・・=?

はどう?n番目までの和は

1-2+4-8+16-32+・・・+(-2)^(n-1) = 1/3 - (-2)^n / 3

となることが示せる。

1/3の部分はnが大きくなっても1/3のままだが2項めは一つの値に落ち着くことはない。なのでこれも答えなし、ということになる。

このように答えがない無限級数は数学の言葉で、発散する、と呼ばれている。

逆にさっきのような答えを持つようなものは収束する、と呼ばれている。

え?相変わらず言葉が難しい?まあモンスターのように見える無限級数には、ちゃんと答えがあるものとないものの2つがあることを覚えておいて。

パンサー尾形さん再登場。

無限級数には答えがあるものとないものがあることがわかってもらえた?

数学なのに答えがないのは残念だな、と思いました?いえいえ、発散する無限級数は和を考えることに意味はない、とされているんです。

でも、今、皆さんが感じた答えがないのは残念だな、という気持ち。

実は数学者の心の中にも満ち満ちていた時代があったんです。

18世紀初頭のイタリアにちょっと不思議な数式に夢中になっていた人がいました。修道士でもある、ルイージ・グイド・グランディ

(おお、ルイージって本当にある名前なのか。類似だと思っていた!)

グランディがひたすら眺め続けていたのは1の足し算と引き算が永遠に続く無限級数です。

1-1+1-1+・・・=?

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E7%B4%9A%E6%95%B0

現代数学ではこの式は1と0をいったりきたりするので答えはないとされるもの。

しかしグランディはこの無限級数の答えを何とか求めたかった。

たどりついた結論は、

1-1+1-1+・・・=1/2

というもの。1710年に発表した文の中でその理由をこうたとえ話で説明した。

ある兄弟が親から1つの宝石を相続することになった。遺言で売却を禁じられていたため2人は交互に宝石を保管することにした。

兄弟はそれぞれ半分の時間宝石を所有してるため、これが無限に続くと2人は1/2ずつ、宝石を所有していることになる。

答えがないはずの無限級数にもなんとか答えを与えたいという考え方は、ほかの数学者たちをも魅了していく。

その一人、クリスティアン・ヴォルフ。

ヴォルフは

1-2+4-8+16-32+・・・=?

にも答えが出るという議論を展開する。

さっき説明したようにn番目までの和は

1-2+4-8+16-32+・・・+(-2)^(n-1) = 1/3 - (-2)^n / 3

と書ける。これはつまりこの無限級数がnがどんどん大きくなっても変わらないコアの部分1/3と、発散してしまう部分とに分けるということができるということを示している。

発散する部分はプラスになったりマイナスになったり、平均がざっくりゼロと言えるから、

1-2+4-8+16-32+・・・=1/3

と言える、ということです。

そして18世紀半ばには、より洗練された議論を展開した数学者がいた。この番組の常連、レオンハルト・オイラーです。

オイラーが利用したのはこの公式

1+x+x²+x³+・・・=1/(1-x)

この公式は

-1<x<1の範囲でしか成り立たない。

例えばこの公式にx=1/2を代入すると、

1+1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+・・・=2

最初に尾形さんが挑戦した問題の答えになる。

ところがオイラーはこの公式をあえて範囲外に適用することで、答えがない無限級数についても”答え”が求められると主張した。

※オイラーの考え方は「解析接続」を先取りしたものと考えられる、という注あり。

例えば、公式にx=-1を無理やり代入すると

1-1+1-1+・・・=1/2

グランディの求めた数式が現れた。

さらに範囲外のx=-2を代入すると、ヴォルフの求めた

1-2+4-8+16-32+・・・=1/3

が現れた。

さらにオイラーは

1+2x+3x²+4x³+・・・=1/(1-x)²

という公式にx=-1を代入することで、

答えがないとされた無限級数は

1-2+3-4+・・・=1/4

となるといった。

ちなみにこのオイラーの公式が正しいとすることで、

1-2+3-4+・・・=1/4

番組の一番初めに出てきたこの式も

1+2+3+4+・・・=-1/12

また正しいとする議論もある。

まず

A=1+2+3+4+5+6+7+・・・

と置く。この4倍は

4A=4+8+12+16+・・・

となる。

両辺を引き算すると、

-3A=1-2+3-4+・・・

となるが、右辺はオイラーによると

1-2+3-4+・・・=1/4

なので

-3A=1/4

A=-1/12

1+2+3+4+・・・=-1/12

※実際には1+2+3+・・・は発散するので和の存在を前提とする議論は正確ではない、と注あり

パンサー尾形さん再登場。

いやいやいや、そんなわけないじゃないですか!

どんどん大きくなる数を足して行くんだからマイナスになるはずないじゃないですか!

今見た式は全部間違っているよ!

なぜって今見た18世紀の数学者たちのやり方を突き詰めていくと、

なんと-1は無限大より大きいというとんでもない議論まで出てくる。

ということで19世紀にはいると、数学者たちはさっき説明した通り、発散する無限級数は和を考えることに意味はない、

という厳格な考えを採用するようになった。

でもですよ、さっき皆さん思いましたよね?数学に答えがないのは残念だなと。

はい、19世紀以降の数学者の中にもしつこく和を求めようした人たちがまだまだいたんです。

1890年代のイタリアに発散する無限級数は和を考えることに意味はない、とする考え方に

いわば挑戦状をたたきつけた数学者がいた。エルネスト・チェザロ

チェザロは数学のテクニックを駆使して、答えはないとされた無限級数にも答えを求められる特殊な計算方法

チェザロ総和法を編み出した。

それを数式で表すと

∑an = lim (∑∑ai)/k  (最初の和はn=1~∞、極限はk→∞、2番目の和はj=1~k、3番目の和はi=1~j)

となる。

この数式にグランディが考えつけた無限級数を当てはめると

1-1+1-1+・・・=lim ∑(1-(-1)^j)/k = 1/2+lim((1-(-1)^k)/(4k) = 1/2

になる。

チェザロのこの方法は、足し算のやり方をうまい具合に調整することで18世紀のやり方を復活させようとするものだった。

さらにほかの答えがない無限級数にも答えを求めることができる別のテクニックが現れる。

それがアーベル総和法ボレル総和法と呼ばれる方法。いわば足し算のやり方をまた別のやり方で調整するこの方法を使うと、

1-2+3-4+・・・=1/4

1-2+4-8+16-32+・・・=1/3

が言えたり18世紀の数学者と同じ結果が得られた。

さらに

1+2+3+4+・・・

の和を計算できるという驚きの方法が世に出る。

その一つはインドの魔術師と呼ばれたシュリニバーサ・ラマヌジャンが考案したラマヌジャン総和法

これをつかうとなんと、

1+2+3+4+・・・=-1/12

が出てくる。

ラマヌジャンはイギリス人数学者、ハーディに宛てた手紙にこんなことを書き記した。

私の理論では

1+2+3+4+・・・=-1/12

になります。こんなことを私が言い出したら先生は私に病院に行けと言われるかもしれません。

(手紙に書いた結果はこれ)

Ramanujanletter_1_20231130213501

このラマヌジャンの絶対にありえないような結論、その真意はいったいどんなものなのか?

実は答えがないはずの式が、解析学のテクニックを駆使することで

1+2+3+4+・・・=-1/12+∫tdt

コアともいえる-1/12の部分と、発散する部分に分離できることが背景にある。

発散する部分はコアより重要度が低いため

1+2+3+4+・・・=-1/12

に等しいと言えるというのです。

ちなみにラマヌジャンと同じ結論には、実はほかの方法でもたどり着くことができる。

その一つ、ゼータ関数正規化法。

ざっくり説明すると素数の回で出てきたζ関数の式に、

1+1/2^s + 1/3^s+1/4^s+・・・=ζ(s)

無理やり範囲外の数s=1(成立する範囲はsの実部>1なのに)を入れると

1+2+3+4+・・・=ζ(-1)=-1/12

が求められるというもの。

尾形さん、あり得ないと思った式ですが、普通とは違う深い意味があったようですよ。

パンサー尾形さん再登場。

いや深い意味があったのかもしれませんが、それでもこの式はあり得ないんじゃないかな?

発散する無限級数にも答えを出したいという気持ちはわかるけれど、ちょっと理屈をこねすぎなんじゃないですかね?

だからこそ、さっきから何か怪しいという感じで””を付けて

”1+2+3+4+・・・”=-1/12

としてたんじゃないですか?この式はあくまで”普通とは違う意味”で正しいということ。

それにですよ、そもそもそんな怪しい和を求めると、何かいいことでもあるの?数学者の自己満足?

ところがですよ!

怪しい和にも意味があるんじゃないかというびっくりする事実がその後見つかったんです。

1948年、オランダの物理学者、ヘンドリック・カシミールが発表した論文が大きな議論を巻き起こした。

Casimirpaper

小さな隙間を隔てておかれた2枚の金属板の間にそれまで知られていなかった奇妙な引力が働くはずだ、のちにカシミール効果と呼ばれるようになった。

https://physicsworld.com/a/the-casimir-effect-a-force-from-nothing/

Casimir

その大きさは、1次元カシミール効果の場合は

”1+2+3+4+・・・”=-1/12

に比例する、ということだった。

実際の3次元では1³+2³+3³+4³+・・・=1/120に比例

この奇妙な引力は存在するのか?

1997年、その存在が実験によって証明され(スティーブ・ラモロー博士)

Casimirpaper2

ニュースが世界を駆け巡った。

私たちを取り巻く自然の法則にこの数式が利用されていることが浮かび上がった。

さらにこの数式を基礎とした、物理学の驚きの理論までが登場している。

超弦理論。(Green,Schwarz, Wittenのが紹介されていた)

Superstring_

これによると、もしこの数式を用いることができるのならこの世界が10次元で出来ている、ということが予言できるというのです。

無限に続くとらえどころのないとらえどころのない数式。

それはひょっとしたら私たちが全く想像できない世界への入り口になっているかもしれない。

パンサー尾形さん再登場。

今の不思議な話、どう感じましたが?奇妙な数式が自然に利用されることは最先端の物理学者でもふしぎだなーと感じるものがあるそうです。

そう、現代数学とその周辺には誰もがびっくり仰天する話がたくさんある。

数学ってやっぱり面白すぎる。

ところで今日出てきた無限級数をちゃんと復習したい人のために、

僕がとっておきの問題を作りましたよ。

今日出てきた式を一回ずつつかった、この式の答えは何だ?

[ (1+1/2+1/4+1/8+・・・)×("1-2+3-4+・・・")×{(1+1/3+1/9+・・・)+("1-1+1-:::")} - 1/"1-2+4-8+・・・

)"]/"1+2+3+4+・・・"

((2×(1/4))×(3/2+1/2)+12)×3=39

だ!

サンキュー!

どうハマちゃん。さすがでしょ!みんなテンション低いな。

来週はBSD予想。

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