パンサー尾形さんのNHK笑わない数学、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想(BSD予想)を観てメモ。GeoGebraでいろいろお絵描きしたり、EDSACIIを調べたり(真空管コンピュータ!)、予想の論文見てみたりした。自分でもBSDの計算追いたくなった。
パンサー尾形さん登場。今日のテーマは「バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想」。
この長ったらしいカタカナ、今日紹介する難問をこの世に送り出した、2人の数学者の名前なんです。
ブライアン・バーチと、ピーター・スウィンナートン=ダイアー。
2人の頭文字をとってBSD予想とも呼ばれる。
このBSD予想、アメリカのクレイ研究所が100万ドルの懸賞金をかけている、ミレニアム賞問題の一つですが、
覚えてます?リーマン予想、P対NP問題、ポアンカレ予想は紹介しましたよね?ナビエ・ストークス方程式も出てきました。
今日のテーマBSD予想がこの7つの難問にあげられているということは難しいだけでなく重要な問題ということを物語っている。
今日の最終目標はBSD予想がどんな難問なのかわかってもらうこと。
でもいきなりは無理なのでまずはこんな簡単な話から。ハマちゃん、カモン!
円の方程式とグラフなんですが、座標が整数になる点を求めてください。
座標ってなんだっけ?と聞く尾形さん。ハマちゃんに教えてもらう。
x²+y²=2
は?
(1,1),(1,-1),(-1,-1)(-1,1)の4つ。当たり。
では今度は座標が有理数になる点を求めてください。
有理数…どんなやつ?分数みたいな?
分数となると全然わからないわ、無理です。
ーーーー
この問題、BSD予想がどんな問題かを知るのにとても大事なので求め方を解説しましょう。
まずさっき尾形さんが求めてくれた(1,1)を通る直線を考えてみる。
例えば傾き2の曲線、次は傾き1/2の曲線、そして傾き11/7の曲線。どれも傾きが有理数になっている。
実は有理数の傾きの曲線が、円と交わる点の座標は、必ず有理数になることが証明できる。
ーーー
GeoGebraでやってみた。ほんとだ!
ーーー
有理数の傾きの直線は無限個あるので、それと交わる点も無限個ある。なので答えは無縁個。
こういう問題は数学の言葉で「有理点を求める問題」と呼ばれています。
え?ずいぶん退屈な問題?確かにそう見えるかもしれない。
でも、実は有理点を求める問題は古代ギリシャの時代に誕生して以降、
フェルマーや、オイラー、ガウスなど数々の天才たちを夢中にさせた数学史上の一大テーマなのです。
数学史に詳しいオックスフォード大学のマーカス・デュ・ソートイ博士。(この方です)
Making a film for TV with a Japanese crew on the Birch and Swinnerton-Dyer Conjecture about counting points on elliptic curves. Once upon a time the BBC would make such programmes. pic.twitter.com/TfxhMtBVuH
— Marcus du Sautoy (@MarcusduSautoy) September 12, 2023
---
有理点を求める問題の重要さwこう語ります。
「私たち数学者は現在に至るまで2000年もの間有理点の問題に夢中になってきました。有理点の問題は決して何かの役に立つわけではないものの、数学の新しいアイデアをもたらす源となってきたのです。」
何となく重要だとわかった?
パンサー尾形さん再登場。
僕は最初からわかってましたよ。その証拠に有理点についての面白い事実を見せてやりますよ!
ハマちゃん、カモン!
尾形さん、さっきこのx²+y²=2には無限に有理点がありましたが、それよりちょっと大きな
x²+y²=3
のグラフには有理点は一つもないことを証明してください。
さっきとは全然違う。まず証明するために、逆に
x²+y²=3
があると仮定したら何が起きる?
x=A/C, y=B/C (A,B,Cは同時に同じ数で割り切れない整数、互いに素)
が存在する。
これを代入してちょっと計算すると、
A²+B²=3C²
になる。
で右辺を見ると3の倍数。するとA²+B²も3の倍数になる。
するとAもBも3の倍数になる(A,Bを3で割ったときの余りを考えると分かる)
※やってみよう。
A=3m+p, B=3n+qとおくと、A²+B²=9m²+6mp+p²+9n²+6nq+q²=3(3m²+2mp+3n²+2nq)+p²+q²で、これが3で割り切れるためにはp²+q²=0, これが満たされるのはp=q=0なのでAもBも3で割り切れる。
ということはAの2乗は9の倍数で、Bの2乗は9の倍数、ということでA²+B²は9の倍数。
3C²は9の倍数、ということはC²は3の倍数ということになる。
A、B、Cが全部3の倍数になるが、互いに素に矛盾している。背理法によって有理点があるというのは誤り。
有理点は1つもない。
サンキューハマちゃん!
難しすぎるよ、という尾形さん。
ーーー
さて皆さん、尾形さんの結果、結構意外じゃなかった?
ある円には無限個の有理点があり、ある円には1つもない。
一体どんな円なら有理点があって、どんな円ならないのか?数学者たちは18世紀ごろまでに円を含む円錐曲線の有理点を明らかにしていった。
ーーー
パンサー尾形さん再登場。
有理点を解き明かした数学者たち(ニュートン、フェルマー、クロード・バシェ)はきっとすごいんだけど、
やっぱ地味でぱっとしないな、なんて思ってない?
実はめちゃくちゃすごいことに繋がっている。その後数学者たち(モーデル、ポアンカレ、ガウス、オイラー)は
さらに難しい曲線の有理点の問題に挑み始めた。
その曲線とは、
楕円曲線。
楕円曲線の有理点の問題が今日のテーマ、BSD予想へと繋がっている。
ーーーー
楕円曲線ってみたことない?
こんなやつです。
※今度はWindows標準付属のグラフ電卓で描いてみよう。
ぐにゃりと曲がった曲線が楕円曲線です。
この楕円曲線の上の有理点の個数が現代数学の一大テーマになってるんですが…
ま、とにかく有理点を探してみることにしましょう。
まずは
y²=x³+1
この有理点は(0,1)(-1,0),(0,-1)の三つはすぐわかる。ではこれで全部?
そうではない。他の有理点は分かっている有理点からまだ見つかっていない有理点を自動的に見つける方法がある。
その方法とはすでに分かっている2つの有理点を結ぶ直線を描き、それが再び楕円曲線と交わる点を求めると?
不思議なことにその点も有理点になっている。座標はちゃんと計算すると(2,3)。同様に(2,-3)も有理点。
この5個で有理点は全て。
※またGeoGebraでやってみた。
別の楕円曲線の有理点も探してみよう。
y²=x³+2
この場合、すぐ見つかるのは(-1,1)(-1,-1)の2個。これを通る直線を引いても新たに交わる点はないので別の方法を考えなくてはいけない。
分かっている有理点に、接線を引く。その交点がまた有理点になっている。この場合、ちゃんと計算すると
座標は(17/4, 71/8)になる。
さて、これが見つかったことで芋づる式に有理点が求まっていく。
やたらややこしい有理数ですが、無限に続いていく。だからこの楕円曲線には無限個の有理点があると分かる。
y²=x³+17
を調べてみよう。(-1,4),(-1,-4)が見つかって、これも芋づる式に見つかる無限個の有理点がある。
ところはこれとは別に無限個の有理点がもう1セットある。
(4,9)を出発点にすると、さっきの有理点とは全く違うもう1セットが無限個ある。
無限個の有理点のグループが2セットあるということになる。
難しかったですか?
ーーー
パンサー尾形さん再登場。
今日はやっぱり難しいなあ。でもBSD予想とは何か、まであともうちょっとのはずだから、我慢するか。
ここまでで楕円曲線には有理点が無限個ある場合があるんだけど、
その無限個が無限個×1だったり、×2だったりすることが分かった。×3や×4もある。0もある。
ある楕円曲線があったとき、その有理点が無限個×何個なのか、すぐわかると思っていませんか?
いえ、実はこれめちゃくちゃ難しいんです。
例えば無限個×3の楕円曲線が初めて見つかったのは1938年。
y²=x³-82x
無限個×4は1945年
y2 = x3 - x2 - 24649x + 1355209
無限個×5は1986まで見つからなかった。
※これが詳しい。
https://web.math.pmf.unizg.hr/~duje/tors/rankhist.html
ある楕円曲線があったとき、その有理点の個数は無限個×何個なのか、すぐわかる手段が全くなかった。
ここまで来たらBSD予想とは何か、わかるんじゃないですか?
バーチとウィンナートン=ダイアーはこの何個というのがこうに違いない、という予想を数学史上初めてうちたてた。
1950年代半ば、イギリス、ケンブリッジ大学に、純粋数学で名を上げたいと思っていた2人の数学者がいた。
ブライアン・バーチと、ピーター・スウィンナートン=ダイアー。
後にBSDとして知られるコンビ。
BSDの2人がターゲットとして選んだのは楕円曲線の有理点の謎。
実はこの問題を解くため、2人が選んだ方法は、世界のだれもがおもいつかなかった方法だった。
当時、登場して間もなかったEDSACIIというコンピュータを使うというものだった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/EDSAC
https://en.wikipedia.org/wiki/EDSAC_2
BSDの2人は、様々な楕円曲線についての基本的な情報をコンピュータで地道に計算することから始めた。
コツコツとグラフに記入しだした。かかった時間は6年。ついに、グラフの傾きが関係しているということにたどり着いた。
数学の言葉でかくと、楕円曲線Eについてそのランクをrとすると以下のようになるというのがBSD予想。
論文はこちら。
http://virtualmath1.stanford.edu/~conrad/BSDseminar/refs/BSDorigin.pdf
数式は難しいがこれがBSD予想の誕生だった。
マーカス・デュ・ソートイ博士は、
「BSDの2人が楕円曲線の有理点の謎であった、無限個×?の「?」を簡単に見分ける方法を発見したことは大きな驚きでした。
数学者たちが2000年も行き詰っていた問題に全く新しい視点を与えたのですから。数論に置いて、実に革命的な瞬間でした。」
ーーー
パンサー尾形さん再登場。
皆さん、今日の目標だったBSD予想とは何か?にやっとたどり着きましたよ。
今あなたは数学の1つの最先端に立っている。
しかし意外な事実がある。
21世紀に入って、BSD予想について誰も予想しなかったことがわかってきたんです。BSD予想発見から50年目の新事実。
それは数学者にとって真っ先に挑まなくてはならないほどのものがBSD予想に含まれていた。
ーーー
皆さん、覚えていますか?笑わない数学の第一回で取り上げた素数。素数の並び方に規則はあるのか?
という大きな謎があった。さらにその謎が宇宙を支配する自然法則ともつながっているんでは?ということも(ゼロ点の間隔と、原子核のエネルギーの間隔)紹介した。
その謎を解き明かすカギをになっているのがリーマン予想。
実はBSD予想は、このリーマン予想をはるかに上回る新たな予想、「深リーマン予想」とも呼ばれるものへと繋がっているという事実が
つい最近、明らかになってきた。
深リーマン予想を用いた「チェビシェフの偏り」の解明と一般化 (代数的整数論とその周辺)
もし深リーマン予想やそれに続く謎が解明されれば、素数の並び方の謎をより深く解明できるだけでなく双子素数の謎やゴールドバッハ予想など、さらなる謎が解明されると言われている。
つまり、有理点を突き詰めたBSD予想の先にこそ、数学者たちが長年追い求めていた数とは何か、そして宇宙の自然法則の真の姿が隠されているのかもしれません。
ーーー
パンサー尾形さん再登場。
どうですか皆さん。最初はつまんない話と思っていたのに、マジ有理点すげーと思っているんでは?
数学はどんな分野でも常に深い世界へと繋がっているもんなんです。
今日もそのことがちょっとでも伝わったならうれしく思う。
シーズン1,シーズン2を通じて全20回の笑わない数学、いかがでしたでしょうか。
僕はまた、この番組が誰かが仕掛けた壮大などっきりじゃないかと疑っている。
もしそうなら終わってほしくないどっきり。ミレニアム賞問題も残っているからあと何回は、という気もするし、だからと言って今日以上に難しい話になっちゃうかもしれないから、もう無理か、、、て気もするし。
言えるのはシーズン2でも脳みその糖分がすっかりなくなってしまった、ということだけです。
ということで皆さん。
どうもありがとう!じゃあまたどこかで!サンキュー(の繰り返し!)
数学にサンキュー!
はいOKです。またやりましょうよという尾形さんにスタッフのリアクションが薄い…
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